昔は商社マンと言えば派手な遊び人も多く、銀座や六本木で散財しているイメージもあったと思います。
一方、最近では堅実な人も増えており、比較的高い給与・ボーナスを貯金のまま置いておくのはもったいない、と考えている人も多いのではないでしょうか。
さて、あなたが若手商社マンで、先輩社員に「資産運用を考えている」と相談したとすると、どういった答えが返ってくるでしょうか。
持株会に入った方が良い、財形貯蓄をした方が良い、おすすめの個別株は〇○、ワンルーム投資で節税を…。
これらのアドバイスを聞くのも無視するのも自由ですが、気を付けなければならないのは「全員がお金のリテラシーが高いわけではない」ということです。
むしろ、私の周りを見ると、あまり深く考えていなかったり、そもそもリテラシーが低かったりする人が非常に多い。
そのため、質問をする側もきちんとそれを見定めなければなりません。
この記事では、「もしも私が後輩に相談されたら」という心構えで、商社マンにおすすめの投資をお伝えしていきたいと思います。
商社マンにおすすめの投資とは
さっそくで大変申し訳ないのですが、商社マンにおすすめの投資はありません。
というより、商社マンに限らず万人におすすめできる投資しかありません。
とてもシンプルで、
- 楽天証券で口座を開き、手数料の安いインデックス投信をひたすら買いましょう。
というものです。
手数料の安いインデックス投信として、例えば以下のようなものがおすすめです。
- eMAXIS Slim 米国株式 (S&P500)
- eMAXIS Slim 全世界株式(オールカントリー)
- SBI バンガード S&P500
- 楽天・全米株式インデックス・ファンド (楽天 VTI)
- 楽天・全世界株式インデックスファンド (楽天 VT)
我々はただのしがないサラリーマンです。
平凡なサラリーマンが投資で99点を取れる方法が、インデックス投資。
これに乗らない手はありません。
当ブログでは、長期のインデックス投資をおすすめしています。 このブログの対象は日系大手サラリーマン、つまり「普通の人」です。普通の人は、本業や家族との生活もある中で、株に時間を割いている暇はほとんどありません。一方[…]
商社マンであることのメリット
もしも商社マンにメリットがあるとするなら、それは安定した入金力があることです。
この入金力を生かして、つみたてNISA40万円、ideco/DC33万円を使い切るだけで、老後2,000万円などまったく問題にならない資産が形成できます。
(下図は21年時点で30歳の人が、つみたてNISAとidecoの非課税枠を使い切った場合のシミュレーションです。)
定年後まで資金が引き出せませんので、長期での資金シミュレーションをしっかり行う必要があります。
資産運用系のブログには、ざっくりまとめると大体次のようなことが書かれています。 楽天証券かSBI証券で口座を開きましょう。 S&P500か全世界株式に連動する投資信託(またはETF)に積立投資しま[…]
よほど豪華な暮らしをしない限り、配偶者分のつみたてNISAやidecoを使い切る余裕も十分にあります。
共働きなどでさらに余裕のある方は、課税枠での投資も行いましょう。
もちろん、全ては自分のリスク許容度の範囲内で、です。
貯金や退職金、相続などでまとまった資金が手に入ったので、投資を始めようと考えている方。「まとまったお金を時間分散させて投資すればいいんだな。ドルコスト平均法だ!」と思っていませんか? あなたはドルコスト平均法の呪いにか[…]
商社マンであることのデメリット
むしろ気を付けなければならないのは、商社マンはこの「平凡な投資」がしづらい環境にあるということです。
「商社マン特有の」という訳でもないのでしょうが、社内にはお金に関心の高い人が多く、資産運用をしている人もたくさんいます。
それゆえに気を付けなければならないポイントを以下で述べます。
1.雑音が多い
自信家/自慢屋が多いのか、同期や先輩社員からとにかくお金周りの雑音が聞こえてきます。
- 個別株で大儲けした。
- リーマンショックやコロナショック時の逆張りで大儲けした。
- 短期で儲けるならFX。
- 不動産投資で節税効果を得つつ数年間の家賃を浮かせた。
- 仮想通貨で数千万円の利益が出た。
- 新興国駐在で現地の勢いを感じた。これから伸びる新興国株にお金を張るべき。
- これからはRobotics・AI・5G・DXの時代になる。
- インデックス投資では「ビジネスを見極めるセンス」が鍛えられない。
- 個別会社の財務分析力やニュースを読み解く力を鍛えて市況を読まなければならない。
実際に私の耳に入ってきた雑音だけでもまだまだあります。
「〇○で儲けた」というのは事実なのかもしれませんが、再現性がありません。
加えて、生存者バイアスの問題もあります。
また、個別株の分析をしているぐらいでビジネスセンスが磨かれるのであれば、こんなに楽なことはありません。
それに、市況を読む力などこの世の誰も持っていません。
(もしも持っている人がいれば、その人物に富が集中しているはずです。)
分かっていても、これらの与太話に耳を傾けないというのは難しいことです。
毎年、多くの若手が同じループにはまっていきます。
2.持株会至上主義者の存在
特に40代以上の世代に多い印象なのですが、「持株会に入るのは当たり前」という固定観念を持っている人が相当数います。
恐らく、彼らの若手時代にまともなインデックス投資先が無かったことも一つの原因だと思います。
持株会を否定するものではありませんが、「奨励金10%」と「10%の利回り」を混同している人が本当に多い。
詳しくは別の記事に書いていますが、以下のポイントは押さえておく必要があります。
- 持株会に10%の利回りはない。
- 持株会の利回りは、長期的には自社株の株価成長率に収斂していく。
- 持株会は短期の資産運用には向いているが、長期の運用対象としては不適切。
多くの日系大手企業には、福利厚生の一環として「従業員持株会」があります。10%程度の奨励金がつくケースも多いため、積立投資をしている人もいらっしゃるのではないでしょうか。 しかし、持株会は本当にお得なのでしょうか?[…]
また、PBR1倍割れという「マーケットに評価されていない株式」を長期で持つことの恐ろしさは、しっかり認識しておきましょう。
<Todo>PBRの意味と、なぜ総合商社が1倍割れしているのかは別途記事化します。
- プロスペクト理論における損失回避性
人間は短期的には利益追求よりも損失回避を過度に優先してしまいます。
持株会では、奨励金により買った瞬間に10%の利益が確定しているため、この「短期の損失回避性」がうまくクリアされています。
本質的には、以下の点で通販番組の「気に入らなければ無料で返品可能」と似ています。
- 購入時の心理的負荷が大きく下げられる
- 一度購入した後は、返品/売却手続きが面倒なので保有し続ける
- 利用可能性ヒューリスティック
あらゆる投資対象の中で、自分の会社ほど情報が得やすく脳裏に浮かんでくる存在はありません。
- 現状維持バイアス × コンコルド効果
若手の頃から、周りに流されよく考えずに持株会に入っている人も多いです。
その場合、ずっと続けてきた積立投資を良いものだと無批判に思い込んでしまう現状維持バイアスや、これまでの投資を正当化したいために継続してしまうコンコルド効果などで説明できそうです。
- バンドワゴン効果
この4月に総合商社に入社した皆さま、ご就職おめでとうございます。この4月からも総合商社で勤め続けることを決めた皆さま、お疲れ様でございます。 さて、突然ですが皆さまは、持株会に入っているでしょうか。会社で生活してい[…]
3.P社陣営の存在
これもよくあるパターンですが、某外資系保険会社のP社の保険や投資商品に入っている人がけっこういます。
P社の顧客ターゲットがアッパーミドルであることも関係していると思いますが、体感で10%ぐらいの人が入っている印象です。
紹介者の保険料率が下がるという特典があるため、「話だけでも」と持ち掛けられるケースもよくあります。
(私も、過去に3回別の人から話を持ち掛けられたことがあります。)
あまり言うと怒られるかもしれませんが、P社商品に資産運用対象としての価値は皆無です。
(というか、P社に限らず保険会社が持ってくる資産運用系の話は、100%ぼったくり商品です。)
このご時世、加入を強制してくる先輩はさすがにいないでしょうが、P社は営業力がずば抜けて高いことで知られています。
あなたが知的防衛手段を持たない状態でP社の営業マンの前に立つなど、カモネギもいいところです。
「話だけなら」と安請け合いしないことをおすすめします。
突然ですが、この世の中には「情報弱者から過大な利益を取るビジネス」というのが横行しています。情報商材など、明らかにそれと分かるものもあれば、巧妙に隠されたものもあります。貯蓄型保険は、まさに「巧妙に隠された情弱向け商品」の典型です。[…]
数字は嘘をつきません。しかし、数字を使って嘘をつく人は山のようにいます。いわゆる「ぼったくりの金融商品」を買ってしまう人がいるのは、「数字を使った嘘」が世に溢れているからです。 例えば、数十万部を売り上げた「知らな[…]
さいごに
いかがでしたでしょうか。
「商社マンにおすすめの資産運用」という表題をつけておきながら、「つみたてNISAやidecoでインデックス投信を」という普遍的な内容しか書いていないことにお怒りの方もいるかもしれません。
ものすごく嫌味な言い方をすると、「商社マン 資産運用 おすすめ」などと検索して「おいしい話」を探している人がいるとしたら、以下のことを強く再認識する必要があると思います。
- 商社マンは凡人
- 凡人が大儲けできる特別な手段など存在しない
- しかし、長期で資産形成ができる手段はある = インデックス投資
凡人の我々に残された道は、これぐらいしかありません。
ただ、確実に「余裕ある生活」へと続く道だと思います。