貯金や退職金、相続などでまとまった資金が手に入ったので、投資を始めようと考えている方。
「まとまったお金を時間分散させて投資すればいいんだな。ドルコスト平均法だ!」と思っていませんか?
あなたはドルコスト平均法の呪いにかかっています。
この記事で呪いを解ければ幸いです。
ドルコスト平均法とは
よく知られている様に、投資タイミングとしては大きく2つの手法があります。
- 一括投資
資金をある一時点で一気に投下する。
- ドルコスト平均法
資金を分散して徐々に投下する。
さて、この2つの投資手法でよく言われてることがあります。
- 一括投資は、直後に暴落が来た場合にリスクが大きい。
- ドルコスト平均法は値下がりしても取得原価を押し下げるため、リスクが低い。
いかにもそれらしく聞こえますが、この主張は本当でしょうか。
ドルコスト平均法が生きる相場は
ドルコスト平均法と言えば、必ず目にする図があります。
一定の価格で機械的に買い付けることで、
- 安値の時は購入量を増やす。
- 高値の時は購入量を減らす。
これにより、一時的な値動きに左右されることなく、購入額を平準化できるという訳です。
この主張には、一定の納得感があります。
ドルコスト平均×インデックス投資
しかし、よく見かけるドルコスト平均法の図は、本当に正しく現実を切り取っているのでしょうか。
ここからはS&P500などへのインデックス投資を前提に話をしますが、インデックス投資には以下の特徴があります。
- 短期的な値動きは上下するが、長期的には右肩上がり
当ブログでは、長期のインデックス投資をおすすめしています。 このブログの対象は日系大手サラリーマン、つまり「普通の人」です。普通の人は、本業や家族との生活もある中で、株に時間を割いている暇はほとんどありません。一方[…]
つまり、長期的なインデックス投資をする場合、必然的に一括投資で投資をした方が多くの利益を得られるはずです。
ドルコスト平均法では確かに購入価格が平準化されますが、長期的には高い価格で平準化されてしまうからです。
一括投資 vs ドルコスト平均法のシミュレーション
では、実際のチャートを用いて検証してみましょう。
シミュレーションの前提
- 前提①
1970年以降のS&P500チャートを使います。(ドル建て・名目・年次)
- 前提②
一括投資と、3年ドルコスト、10年ドルコスト、30年ドルコストの4パターンを比較します。
- 前提③
検証方法は以下の通りです。
・1970年以降のある任意の年から、4パターンで投資を開始
・30年後の投資成績をパターンごとに比較
少し分かりにくいですが、以下の22ケース全てにおいて、一括投資と3パターンのドルコスト平均法の成績を比較します。
Case1 |1971年から投資 → 2000年の成績
Case2 |1972年から投資 → 2001年の成績
Case3 |1973年から投資 → 2002年の成績
…
Case22|1992年から投資 → 2021年の成績
右肩上がりのチャートだと、ドルコスト平均の期間を長く取れば取るほど取得価格は高くなるはずですので、感覚値としては投資成績は以下になるはずです。
- 一括投資 > 3年ドルコスト > 10年ドルコスト > 30年ドルコスト
この仮説が正しいかを検証していきます。
シミュレーション結果
さて、さっそく検証結果です。
細かいエクセルを載せても仕方がないので、結果のみグラフで簡単に示します。
仮説通り、投資期間を繰り延べれば繰り延べるほど、収益性は悪くなることが分かりました。
なお、示しているのはあくまでも22ケースの平均値。
22ケースの30年後の資産額を箱ひげ図でプロットすると以下の通りです。
3年程度にならして投資するぐらいでは、それほど有意なインパクトはないとも言えそうですが、やはり期間を延ばすほど収益が悪化していきます。
ちなみに、22ケースの中で一括投資に勝つケース(勝率)は以下の通り。
参考までに、5年と20年も追加でプロットすると、ドルコスト投資の期間を延ばせば延ばすほど、勝率が低下していくことが読み取れます。
以上のように、期間を長く取れば取るほど取得価格は高くなり、結果として収益性が損なわれることが分かりました。
ちなみに、今回はデータの都合もあって年次でシミュレーションしましたが、月次であってもほぼ同じ結果になります。
積立NISAで運用している人なら一度は考えるのではないでしょうか。「年初一括で投資するか、毎月積み立て、毎日積み立てのどれが一番リターンがいいのだろうか」この記事ではS&P500の過去実績を元にシミュレーションしたいと思いま[…]
相場は読めない、だから一括投資
本ブログの対象者は、日系大手サラリーマン。つまり、普通の人です。
普通の人には相場を読むことはできません。
唯一「読める」ものがあるとすれば、それは「長期的には世界の経済は右肩上がりで成長する」ということです。
いつ相場が下がるか分かりません。いつ暴落が来るのかもわかりません。
ただ、「30年後には今よりも世界の経済は成長している」という一点についてのみ、インデックス投資家はほぼ確信に近い「読み」を持っています。
長期的に世界の経済は成長する、という見立てを持っている人が至るのは以下の思考のはずです。
- いまこの瞬間が最も安いはずだから、一括で購入した方が良い。
ドルコスト平均法を選択する人こそ相場を読んでいる
よく「一括投資は相場を読める人の手法」と書いている記事を見かけます。
しかし、これはむしろ逆です。
ドルコスト平均法が威力を発揮するのは、「投資期間のどこかで下げ相場が続き、最後に少し寝戻りする」といったような相場の時です。
これこそ、「特定の期間に株価が下落・暴落する」という、読めないはずの相場を読んだ行動といえます。
特定の期間の下げ相場を予想した投資行動は合理的ではありません。
アセットアロケーションを正しく保つ
さて、これまで一括投資かドルコスト平均法か、という題を立てていました。
しかし、これは突き詰めると「アセットアロケーションを保つ」ということに帰着します。
リスク資産と無リスク資産の保有割合を一定に保つ
そもそも、投資をする際に一番最初にしなければならないことは何でしょうか。
それは、①自分のリスク許容度を把握し、②アセットアロケーションを決めることです。
アセットアロケーションとはつまり、リスク資産と無リスク資産の保有割合のことです。
リスク資産としては、手数料の安いインデックス銘柄の投資信託を選んでおきましょう。
eMAXIS SlimシリーズのS&P500や全世界株式(オールカントリー)などを選んでおけばよいと思います。
無リスク資産は、現金や債券、金などがあげられますが、シンプルに現金で構いません。
リスク許容度をはかるには
自分のリスク許容度がどれぐらいか、と言われても困る人がほとんどだと思います。
そこで、慣れるまではリスク資産が50%目減りしても耐えられるかどうか、ではかりましょう。
これには理由があります。
投資の世界で「リスク」とは、リターンのブレ幅のことを言います。
年平均リターンが7%の商品があったとしても、毎年ぴったり7%のリターンが得られるわけではありません。
ある年は20%の儲け、次の年は▲15%の損、というように、振り子のように毎年のリターンにはブレが生じます。
例えば、S&P500やオールカントリーのインデックス投信を調べると、「平均リターン7%、リスク18%」などの記載があります。
これは、68%の確率(=1標準偏差)で年リターンが7%±18%に収まる、という意味です。
更に言うと、95%の確率(=2標準偏差)で7%±36%、99%の確率(=3標準偏差)で7%±54%に収まる、と言う意味です。
この時、▲50%というのは3標準偏差(信頼水準99%)の更に外側に位置しています。
これは相当に保守的な見立てとなります。
例えば2,000万円の現金を持っていた場合
それでは、いくらを投資に回せばいいのかを具体的な数字を用いて考えてみましょう。
例えば2,000万円の現金を持っており、投資を始めたいと思っていたとします。
この内のいくらを投資に回せばよいのかを考えるとき、いくらまで資産が減っても耐えられるか、ということを想像してみましょう。
この許容度に正解は無く、個人のリスク許容度によって異なります。
このリスク許容度に基づくアセットアロケーションは、年齢や家族構成の変化、マイホーム購入などのライフイベントにより大きく変動します。
ライフイベントの発生ごとに見直すようにしましょう。
ドルコスト平均によるアセットアロケーションの乱れ
さて、ここで話は一括投資とドルコスト平均法に戻ります。
先ほどのBさんを例にとって考えましょう。
Bさんの理想のアセットアロケーションは、リスク資産:無リスク資産=50%:50%です。
当たり前ですが、現金2,000万円を保有している状態から1,000万円を一括で投資に回した場合、その瞬間に理想のアセットアロケーションを実現することができます。
一方、ドルコスト平均法の場合はどうでしょうか。
例えば10年間に渡って徐々に資金を移動させた場合、理想のアロケーションになるのに10年かかります。
1年目~9年目はリスクを過度に小さく抑えてしまうことになり、投資成績が悪くなってしまいます。
このように、ドルコスト平均法で資金移動をする場合、長期に渡ってアセットアロケーションが崩れてしまうことになります。
「ドルコスト平均法よりも一括投資」というのは、このアセットアロケーションの観点からの主張です。
よくある質問
「一括投資で資金移動すべき」と言った時に、よく寄せられる質問です。
初心者には一括投資は不向きでは?
確かに、初心者の方が大金を一括投資すると、値動きが気になり不必要に不安に駆られることもあるでしょう。
一方、ドルコスト平均法は少しずつ資金が移動できるので、精神的に楽だとも言えます。
長期投資において重要なのは、「市場に残り続けること」です。
この意味では、ドルコスト平均法で徐々に投資総額を増やしていくことに意味はあるのかもしれません。
ただ、この議論もリスク許容度からくるアセットアロケーションの問題に帰着すると思います。
投資に慣れていない間は、自分のリスク許容度が想定よりも低いゆえに、値動きが気になり狼狽してしまうだけです。
一括投資かドルコスト平均法かを悩む前に、自分のリスク許容度を見つめなおしましょう。
一括投資後に暴落したら?
投資後すぐに暴落したらどうするんだ、という人も多くいます。
この問いへの回答もシンプルで、アセットアロケーションを保つように動けばいいだけです。
例えば先ほどのBさんが一括投資した直後に、インデックス投信が▲50%の大暴落をしたとしましょう。
この状況ですべきことは1つだけです。
シンプルに、崩れたアセットアロケーションを元に戻すことです。
この例で言うと、250万円分のインデックス投信を買い増すことです。
さらに、その後株価が元に戻ったとしましょう。
再度アセットアロケーションが崩れ、今度はリスクを取り過ぎた状態になってしまいます。
理想の比率に元に戻すために、375万円分の投資信託を売却します。
たったのこれだけです。
アセットアロケーションを保つことだけ考えておけば、暴落が来ても何も怖くありません。
淡々と、理想の比率を維持するだけです。
現実的には、アセットアロケーションが戻るまで投資の買付けをストップし、貯金を厚く確保することで徐々に戻す方が良いかもしれません。
毎月の給与からドルコスト平均法で積立投資をするのもダメなの?
ダメではありません。
多くの人が、毎月の給与からの積立投資をしていると思います。
給与から積み立てるとき、投資余力の100%を一括で投資しています。
つまり、積立投資においては、ドルコスト平均法というより一括投資を毎月行っていると捉えた方がある意味正確です。
この記事で「ドルコスト平均法よりも一括投資をすべき」と言っているのは、以下のようなケースです。
- まとまった額の貯金ができたとき。
- 相続で多額の現金を入手したとき。
- 退職金を受け取ったとき。
- 宝くじが当たったとき。
これらのように、まとまった投資資金を手元に有している時の投資手法としては、ドルコスト平均法ではなく一括投資とすべきと述べているにすぎません。
頭ではわかっていても、一括投資はどうしても怖い!
理論的には一括投資が合理的と分かっていても、それでも暴落が怖いという方もいるでしょう。
現実的な折衷案として、2~3年に分けて投資するのはいかがでしょうか。
理論上は一括投資よりも投資効率は落ちますが、30年などの長期で見れば、2~3年の投資タイミングのずれは誤差とも言えます。
多少の投資効率の悪化は、「安心を買うコスト」と割り切るのも一つの考え方です。
つみたてNISAやidecoの枠を超えた分を特定口座で投資した方が良いのか?
例えば500万円を投資信託に振り分けたいと思っているときに、以下のどちらを選ぶか、と言う話です。
- 特定口座を使いながら一括で資金移動する
- つみたてNISA40万円+ideco33万円*=73万円/年の投資枠を使い切るために、約7年かけて資金移動する
*厳密には人によって異なりますが、このブログが対象としている日系大手サラリーマンは33万円が上限という方が多いと思います。
詳しくは別の記事に書きますが、特定口座を使ってでも一括投資した方が投資効率は良くなります。
さいごに
いかがだったでしょうか。
世の中にはドルコスト平均法を称賛する記事が溢れており、「とにかく分散投資すればいい」と考えてしまいがちです。
しかし、この記事内で触れたように、「まとまった資金で投資をするとき」と「積立投資」がごちゃ混ぜに議論されていることも少なくありません。
しっかりとポイントを理解していれば、一括投資は何も怖くないことが分かって頂けると思います。
この記事が少しでも皆さまのお役に立てたのであれば幸いです。