突然ですが、この世の中には「情報弱者から過大な利益を取るビジネス」というのが横行しています。
情報商材など、明らかにそれと分かるものもあれば、巧妙に隠されたものもあります。
貯蓄型保険は、まさに「巧妙に隠された情弱向け商品」の典型です。
この記事では貯蓄型保険でなぜ大損を被るかを解説することで、知的防衛の手段をご提供できればと思います。
- これから保険に入ろうと思っている人。
- すでに貯蓄型保険に入ってしまっている人。
掛け捨て保険・貯蓄型保険とは
まずは定義の確認からです。
掛け捨て保険
いわゆる「普通の保険」です。
万が一の事態に備えて掛け金を支払います。何も起こらなければ、払ったお金は返ってきません。
貯蓄型保険に比べ、安い掛け金で保障が受けられることが特徴です。
貯蓄型保険
「普通の保険」に貯蓄の要素を加えたものです。
満期を迎えると、「解約返戻金」や「満期保険金」という名目で、払った保険料+αの額が返ってきます。
つみたて貯金のような感覚で加入する人も多く、「積立保険」などとも呼ばれます。
掛け捨て保険は損、という誤った風潮
実に64%の人が貯蓄型を志向しているというデータがあります。
※生命保険文化センター「生活保障に関する調査(令和1年度)」より
理由として大きいのが「掛け捨て保険は支払った保険料が無駄になって損だから」というもの。
貯蓄型保険であれば満期後に支払った分+αが返戻金として戻ってくるのに比べて、何も戻ってこないのは損だ、という訳です。
しかしこれは全くの誤りです。
これから解説していきます。
そもそも保険をかける意味とは
そもそも論として、なぜ保険に入る必要があるのでしょうか?
理由は極めて明確で、以下の通りです。
- 起こる確率は低いけれども、
- 起きた時には甚大な経済的損失を被る事象に対し、
- 平時から備えておくため。
保険とは、滅多に起こらないことが起きた時に「経済的に詰むことを避けるため」に準備しておくものです。
この観点から考えると、入っておくべき保険と言うのはそんなに多くありません。
- 生命保険(収入保障保険)
- 火災保険
- 地震保険
- 自動車保険
- 自賠責保険
また、入るとしても掛け金は最低限で構いません。
何故なら、保険以外にも必要なお金を補う手段はあるからです。
特に、日本の公的保障は非常に手厚いため、必要な保険料は実は非常に少なくて済みます。
【保険のカバー範囲イメージ】
貯蓄と保険は切り離して考える
上述の通り、保険を掛けるのは「滅多に起こらないことが起きた時に経済的に詰むことを避けるため」でした。
ここで貯蓄型保険に話を戻しますが、「貯蓄型保険」では「保険」と「貯蓄」がセットになっています。
保険に入る目的に「貯蓄するため」などという理由はありませんでした。
それもそのはず、貯蓄がしたいのであれば、普通に貯金をすればいいだけだからです。
保険を使う意味は全くありません。
保険会社は色んな口実をつけて「貯蓄」と「保険」のセット商品を売り込んできますが、我々は両者をしっかりと切り離して考える必要があります。
しかもこの「貯蓄」部分に、極めて高い手数料が掛けられているのですから、我々は一層注意しないといけません。
【貯蓄型と掛け捨て型のイメージ】
貯蓄型保険で損をする構造とは
さて、貯蓄型保険がなぜ損なのかを説明するには、保険会社のビジネスモデルを説明する必要があります。
保険会社には2つの顔がある
保険会社のビジネスモデルを単純化すると、以下の通りです。
- 加入者から保険料を徴収する。
- 徴収した保険料を資本市場で運用し、リターンを得る。
- 集めた保険料と運用リターンから、加入者に保険金を支払う。
この時、保険会社には2つの異なる顔があります。
①③では「保険会社」として顧客と向き合っている裏側で、②では膨大な資金を投資する「機関投資家」としても動いているのです。
【保険会社のビジネスモデルイメージ】
図の通り、数十兆円の巨額な資産をもとに、さまざまな資産に分散投資をしています。
我々が資本市場で株式や債券を買い付けるとき、裏で売っているのは彼ら機関投資家ですし、逆に我々が売却する時に裏で買い取っているのも彼ら機関投資家なのです。
生命保険会社、損害保険会社、信託銀行、普通銀行、信用金庫、年金基金、共済組合、農協、政府系金融機関などが典型。
掛け捨て保険の仕組み
保険会社に「保険会社」の顔と「機関投資家」の2つの顔があることを踏まえて、まずは掛け捨て保険の仕組みを説明します。
掛け捨て保険は、いわゆる「普通の保険」です。
- たくさんの人からお金を集める。
- 集めたお金を運用して増やす。
- 「万が一」が起きた加入者に対し、保険金を支払う。
当然ながら、何も起きない大半の人は、何も貰えません。
「保険機能」のみを提供する合理的な商品です。
※保険会社の利幅はイメージです。
貯蓄型保険の仕組み
一方の貯蓄型保険は、「保険」と「貯蓄」がセットになっています。
このうち、「保険」部分は掛け捨て保険の仕組みと全く同じです。
注意しなければならないのが、「貯蓄」の部分。貯蓄部分は以下の仕組みになっています。
- 1人からお金を集める。
- 集めたお金を運用して増やす。
- 雀の涙ほどの色を付けて、「返戻金」として満期を迎えた全ての加入者に支払う。
「保険」では無いので、たくさんの加入者から保険料を集めて、万が一に備える必要はありません。
※保険会社の利幅はイメージです。
貯蓄型保険は高額の信託報酬を支払っているのと同じ
さて、この「貯蓄部分」には、実は法外な信託報酬を支払っています。
例えば、月々16,000円の貯蓄型生命保険に30年加入したとしましょう。
※参考:生命保険文化センター「生活保障に関する調査(令和1年度)」によると、年間払込保険料は平均1.6万円/月(全生保、個人年金保険含む)。
すると、30年合計で約600万円を保険会社に支払うことになります。
死亡することなく無事に満期を迎えて、返戻金として700万円が返ってきたとします。
返戻率は117%(700万/600万)です。
これを見て、無知な加入者はこう思う訳です。
「やったぞ、117%に増えた!超低金利の時代において、+17%の資産運用は悪くない数字だ!」
比較対象となる基準値を持っていないので、このように考えてしまいます。
しかし、この数字は全くよい成績ではありません。むしろ最悪です。
そもそも、30年で17%ですので、1年辺り0.56%しかありません。
しかもこれは単利ですので、福利に直すとさらに数字は悪化します。
加えて、保険会社は我々のお金で運用をしています。
かなり安全サイドを取っていますので、恐らく利回りは3%程度でしょう。
※参考:同じく安全サイドを取っているGIPCの運用成績(2001年度~2018年度)は年率約3%
<Todo>保険会社の運用利回りについて、別途調べて記事化します。
もしも月々16,000円を利回り3%で運用すると、30年後には950万円になります。
にも関わらず700万円しか手に入らないということは、250万円を手数料として支払っていることになります。
これは2%の信託報酬を支払っているのと同じです。
楽天証券などでつみたてNISAやiDeco口座を開き、自分でインデックス投資をすれば信託報酬は0.1%程度。
20倍もの手数料を支払って、安全サイドの3%のリターンを求めるなど、考えられません。
<Todo>手数料率が長期投資に与えるインパクトについて、別途記事化します。
まだあります。
30年もの長期にわたって資金を拠出できるなら、もう少しリスクを取ってリターンを狙える対象、例えばS&P500に投資することも十分に可能です。
月々16,000円の貯蓄型保険ではなく、4,000円程度の掛け捨て保険に入り、浮いた12,000円をS&P500に投資してたら、30年後には1,200万円になります。
※S&Pの利回りを6%として計算
掛け捨て保険にしていれば1,200万円を手に入れることができたのに、貯蓄型保険を選んだばかりに700万円しか手に入りません。
機会損失は▲500万円。余りに大きすぎます。
保険販売で使われるセールストーク
数字で見るとこんなにも損なのに、なぜ64%もの人が貯蓄型保険を選ぶのでしょうか?
それは、保険のセールスマンが口八丁のセールストークを繰り広げるからです。
知識が無い状態だと、ついついセールトークが一理あると思ってしまうものです。
以下では典型的なセールストークを例示するとともに、反論を記載していきます。
知識武装の一助となれば幸いです。
掛け捨てはお金を捨てているようなもの
掛け捨ての保険は、確かに支払った保険料が戻ってこないのは事実ですが、だからと言ってお金を捨てていると考えるのは間違いです。
当たり前ですが、保険期間中にあなたを保障で守ってくれることへの対価として、「あるべき保険の形」で支払っているだけです。
また上述の通り、貯蓄型であっても、「保険」の部分では掛け捨てと同じ仕組みで保障が掛けられていますので、掛け捨てだけが損かのように喧伝するのはミスリーディングです。
(そもそも保障という価値を得ている訳なので、損でも何でもないですが。)
お金を捨てているというなら、むしろ貯蓄型の「貯蓄」の部分です。
法外な手数料をドブに捨てているようなものです。
返戻率が100%以上なので、実質の保険料負担なしで保険を持つことができる
何度も言っている通り、「保険」と「貯蓄」がごちゃ混ぜになっています。
貯蓄型保険では一部のみしか「保険」分に充当されないので、受けられる保障は支払額に比べてかなり小さいです。
また、機会損失のコストがすっぽり抜けています。
貯蓄型保険は高利回り
こんなとんでもない記事を書くセールスマンまでいます。
仮に月に保険料が1万2000円ぐらいの貯蓄型保険があったとします。20歳で加入し、60歳まで40年間、保険料を払い続けると総額で大体600万円を払うことになります。
60歳で満期になり、翌月にこの保険を解約すると740万円ぐらいが解約返戻金として戻ってきます。
(中略)
この貯蓄型保険を、金融商品として見てみましょう。
あくまでも満期まで解約しないことを大前提としますが、月々1万2000円の保険料で、年間の総額が14万4000円です。40年で140万円のプラスですから、1年で3万5000円増えたことになります。
いまどき、1年で14万4000円を積み立てて3万5000円増えるような金融商品はまずあり得ません。
※太字・赤マーカーは当ブログで追記
どこから突っ込めばいいのか分からないぐらい、めちゃくちゃな言い分です。
本来「毎月積み立てた元本総額に対して何%の利回りがあるか」という話をしなければならないのに、最後の行で突然「1年に支払う金額に対していくらの利回りがあるか」という話にすり替えています。
ちなみに、月々12,000円積み立てて3%で運用すると、40年後に1,100万円になります。6%だと2,400万円。
元本600万円が40年後に740万円になる金融商品(利回り1.2%)など山ほどあります。
貯蓄型は節税効果が高い
例えば年80,000円の生命保険に入っていた場合、以下の控除を受けられます。
- 所得税控除:40,000円
- 住民税控除:28,000円
<Todo>サラリーマンが利用できる節税策については別途記事に書きます。
仮に所得税20%・住民税10%を払っている人の場合、80,000円の生命保険を払うことで10,800円の節税効果があります。
さて、この節税策を引き合いに出して、こういう人がいます。
「80,000円払って10,800円のリターンが得られるのと同じ。つまり、年13.5%の利回りをもつ超優良な金融資産です。」
※サラリーマンに節税を訴えるブログや本にも平気でこんなことが書かれています。
これは全くの大間違いです。節税で「13.5%の利回り」はありません。
なぜなら、13.5%の節税効果は入金時の一回限りに発生するものであり、入金後の毎年の元本には一切の影響を及ぼさないからです。
持株会の奨励金10%と全く同じ構図です。
少し考えれば分かることなのに、平気でこういう嘘をつく人がいます。
こういう人は絶対に信用してはいけませんので、本当に気を付けてください。
- それらしい数字を並べて騙そうとしているペテン師
- 単純に数字に弱い人
のどちらかです。いずれにせよ、大事な資産を預けるのに、信用に足る人ではありません。
また、そもそも掛け捨て保険であっても全く同じ節税効果が享受できるので、「貯蓄型保険」特有のメリットかのように言うのは間違いです。
満期まで持てば元本割れはしないから損はしない
他の選択肢を選ばないことによる機会損失を無視しています。
また、「満期まで持てば」というのが曲者で、満期前に解約すると平気で元本割れします。
資金用途を制限することになりますので、その意味でも自分で運用した方がいいです。
また、「元本割れしない」とはあくまで名目値の話であり、インフレによる実質価値では元本割れしている可能性が大いにあります。
自分で運用すると損失を出すかもしれないが、保険に入ればマイナスになることは無い
保険は20年~30年の長期に渡って加入するものです。
過去30年、どのタイミングで投資を始めても、20年後にリターンがマイナスになったことは1度もありません。
※S&P500、円建て、名目値ベース
貯蓄型は貯金ができない人に向いている
このトークは、保険に関するほとんど全ての記事に書かれています。
しかし、こんな論拠がまかり通っていること自体、理解に苦しみます。
「貯金が苦手なので、30年間私の代わりに貯金をしてください。お礼に500万円をお支払いします」と言っているのと同じです。
明らかにコストと対価が見合っていません。
セールストーク以外にも罠がたくさん
セールストーク以外にも、貯蓄型保険への加入を促す構造的な罠があります。
「掛け捨て」「貯蓄型」という言葉に惑わされる
恐らく保険業界が作った言葉なのでしょうが、「掛け捨て」「貯蓄型」という言葉自体がすでに混乱を招きます。
貯蓄志向の国民性も相まって、「掛け捨て=悪いもの」、「貯蓄型=いいもの」という言葉のイメージが刷り込まれています。
貯蓄型は複雑な商品設計になっている
私も何度か貯蓄型保険の説明を受けたことがありますが、ぱっと聞いただけでは良いのか悪いのか分からない複雑な仕組みになっています。
これは、貯蓄型が不利なのがばれない様に、保険会社の商品設計部隊が趣向を凝らしているからです。
よく分からないものには投資しないようにしましょう。
親世代(あるいは親の親世代)の影響
過去は予定利率5.5%~6%という保険商品が売り出されていたそうです。
いわゆるお宝保険と言うものです。
<Todo>予定利率については別途記事に書きます。
残念ながら、超低金利時代の現在はそんな美味しい商品はありませんが、「貯蓄型保険=素晴らしい」と刷り込まれた世代の影響で、知らず知らず貯蓄型保険を選ぶようになっているのかもしれません。
保険業界のインセンティブ制度
これが一番大きい理由かもしれません。
貯蓄型保険は、加入者にとってはとんでもないぼったくり商品ですが、逆に保険会社にとってはドル箱商品です。
当然、セールスマンや販売代理店へのインセンティブも貯蓄型の方に手厚く設定されているため、セールスマンは何としても貯蓄型で契約を取ろうとしてきます。
これが強力なセールストークに繋がり、貯蓄型保険の高い契約率に繋がっていると考えます。
保険を選ぶときにやってはいけないこと
さて、これまで「なぜ貯蓄型保険がだめか」ということを説明してきました。
最後に、保険を選ぶときに絶対にやってはいけないことをお伝えします。
それは「何も調べずに保険の窓口に行くこと」です。
「保険のことはよくわからないし、取り敢えずほけんの窓口に行って色々教えてもらおう」と考える人も多いかもしれません。
そんなあなたは、保険の販売員から見ると葱を背負った鴨に見えることでしょう。
相手は百戦錬磨のプロです。最低限の知識武装も無しにノコノコ出向いては、向こうの思うつぼです。
まずは自分で最低限の知識を身につけてから窓口に行きましょう。
また、保険について調べるときに、保険のアフィリエイトブログなどにも注意しましょう。
上述の通りアフィリエイト単価が高い貯蓄型保険に誘導している可能性が高いです。
最後に
長い記事になってしまいました。
最後に、この記事のポイントをまとめておきます。
- 保険は保険、貯蓄は貯蓄で別々に考える。
- 資産運用は、つみたてNISA・iDecoを使って自分で行いましょう。
- 保険は必ず掛け捨てを選びましょう。
<Todo>すでに貯蓄型保険に入っている人の対処法について、別途記事化します。