サラリーマンの皆さんの給与明細を見てみると、毎月「健康保険料」という科目で、数千円~数万円が引かれているはずです。
サラリーマンは全員、国の運営する「健康保険」に加入しているからです。
この健康保険ですが、とてつもなく手厚い保障内容となっています。
この手厚い保障をきちんと理解していれば、わざわざ民間の医療保険に追加で加入する必要がないことが分かります。
にも関わらず、73%もの人が民間の医療保険に加入している、というデータがあります。
※生命保険文化センター「生活保障に関する調査(令和元年度)」より
この記事では、日本の手厚い健康保険制度を開設することで、無駄な保険料の支払いを見直すお手伝いができればと思います。
- 高額療養費制度のことをよく知らない人
- 医療保険に入っている人
日本の健康保険は超優秀
ほとんどの方が、「医療費の窓口負担は3割」ということはご存じだと思います。
これだけでも十分に素晴らしい制度ですが、「高額療養費制度」と呼ばれる更にとてつもなく優秀な制度があります。
100万円の医療費、自己負担はいくら?
例えば、年収500万円のサラリーマンが大病を患い、100万円という高額の医療費がかかったとしましょう。
この時の自己負担額は、一体いくらになるでしょうか。
医療費が100万円ですので、窓口負担は3割の30万円です。
しかし、30万円まるまるの負担では重すぎるということで、更に約21万円が「高額療養費」として健康保険から給付される仕組みになっています。
結果、自己負担額はたったの約9万円になります。
収入により自己負担額は異なる
さて、上の例では自己負担は約9万円でしたが、実際には収入によって自己負担額は異なります。
簡単に言えば、年収が高い人ほど自己負担額が増え、低い人ほど減る仕組みになっています。
具体的な金額は、下図の通り3.5万円~約25万円までと、かなり幅があります。
標準報酬月額とは?
上ではさらりと「年収により自己負担額が異なる」と言いましたが、正確には「標準報酬月額により異なる」です。
本来であれば、健康保険加入者の毎月の収入を計算し、その月ごとの支払い余力を計算すべきところですが、これには膨大な手間がかかります。
そのため、簡易手段として、給与・残業代・その他諸手当の4月~6月平均を「標準報酬月額」と定義し、この額によって自己負担限度額を決めているという訳です。
負担額を減らす更なる仕組み
これだけでも凄まじい高額療養費制度ですが、さらに負担額を減らす色んな仕組みが用意されています。
1.医療費の合算が可能
まず、医療費を合算して計算することが可能です。
これにより、自己負担額はさらに下がることになります。
以下では、色んな合算のパターンを見ていきます。
① 同月内の医療費の合算
まず、同じ月に複数回の医療費が発生した場合、それらを合算して請求することができます。
おおざっぱな例ですが、年収500万円の人が、同じ月に100万円かかる治療を3回受けたとします。
この時、自己負担額は約9万円×3回=約27万円ではなく、合算して300万円の治療を1回受けたものとし、約9万円×1回=約9万円とすることができます。
② 医療機関の合算
異なる医療機関で受診した場合でも、同月内であれば合算して請求することができます。
同月内に、病院Aで100万円×2回の治療、病院Bで100万円×1回の治療を受けた場合でも、自己負担額は9万円です。
③ レセプトの合算
レセプトとは医療機関が医療費の請求のために各健康保険に提出する明細書のことです。
月単位、患者単位で、入院・外来・医科・歯科に分けて発行されます。
このレセプトも、同月内であれば合算して請求することができます。
つまり、例えば同じ月に入院・外来・調剤の3つでそれぞれ100万円ずつのレセプトが切られた場合でも、自己負担額は9万円のままです。
④ 世帯で合算
医療費は、同月内であれば世帯で合算することもできます。
例えば、夫・妻・子どもの3人にそれぞれ100万円の医療費が発生したとしても、同月内であればそれらを合算可能なため、世帯の自己負担額は9万円となります。
2.多数該当
医療費の合算以外にも、「多数該当」という仕組みがあります。
過去12ヶ月以内に3回以上、高額療養費制度を利用している場合、4回目からは「多数回」に該当し、更に低くなった限度額が適用されます。
医療費の払い戻しがあるとは言え、何度も何度も支払いが発生しては負担が重くなりますので、それを軽減する仕組みです。
また、多数回に該当する場合の具体的な軽減負担額は以下の通りです。
ざっくり、20%~50%ほど負担が減ります。
3.高額長期疾病の特例
多数該当の仕組みがあっても、長期で高額の費用が掛かる医療を受けていると、家計への負担は甚大になります。
この負担を軽減すべく、国が指定する3つの特定疾病については、自己負担額を大幅に低減する仕組みが準備されています。
- 人工腎臓を実施している慢性腎不全
- 血漿分画製剤を投与している先天性血液凝固第Ⅷ因子障害または第Ⅸ因子障害(血友病)
- 抗ウイルス剤を投与している後天性免疫不全症候群(HIV)
これらの3つのいずれかに該当する場合、自己負担額は原則1万円となります。
※標準報酬月額が53万円以上の高所得者層は、慢性腎不全のみ自己負担額が2万円に設定されています(血友病・HIVは所得に関わらず一律1万円)。
4.限度額適用認定証
高額療養費制度を使っても、一時的には窓口で3割の医療費を払わなければなりません。
この一時負担を軽減するために「限度額適用認定証」という仕組みが用意されています。
高額の医療費が発生しそうなことが分かっている場合、事前に健康保険に申請することで認定証を受け取れます。
この認定証を病院窓口に提示すれば、自己負担限度額までの支払いで済むため、一時負担が発生しなくなります。
限度額適用認定証を使わない場合、給付を受けるまでに早くても3か月程度はかかります。レセプトの確定、高額療養費の審査などに時間がかかるためです。
5.高額療養費貸付制度・高額療養費受領委任払い制度
一時立替が難しい場合は、通常は上記の「限度額適用認定証」を使いますが、何かの理由でそれができなかった場合でも救援策が儲けられています。
高額療養費貸付制度
高額療養費の払い戻しが行われるまで、払い戻し金額の8割を無利子で借りることができます。
数か月後の高額療養費は、借りた分を相殺された額が振り込まれることになります。
高額療養費受領委任払い制度
高額療養費制度の自己負担限度額を超えた部分を保険者から医療機関へ直接支払う制度です。
国民健康保険へ「医療費を支払うことが困難であること」の申し立てを行い、医療機関との受領委任契約を結びます。
6.大企業の健康保険組合
これは公的保険自体の仕組みではありませんが、大企業に勤めているサラリーマンの場合、健康保険組合で被保険者の負担を軽減するため独自の給付を行っている場合があります。
例えば、高額療養費制度を使ったとしても、標準報酬月額が53万円~79万円あると、自己負担限度額は約17万円になります。
この負担を軽減すべく、健康保険組合が「被保険者の負担が2万円になるよう、差額を給付する」などの仕組みを設けている場合が多いです。
詳しくは、ご自身の健康保険組合に確認してみましょう。
レセプトの合算、医療機関の合算ができないなどの条件がついている場合もあります。健康保険組合のHPを確認してみましょう。
7.医療費控除
これも公的保険自体の仕組みではありませんが、医療費控除により税金が少なくなる場合もあります。
高額療養費制度や健康保険組合の給付金制度、その他民間の医療保険の給付金などをすべて勘案した後の「実際に支払った1年間の医療費合計額」について、10万円を超えた部分は所得控除が可能です。
医療費控除を受ける場合、確定申告が必要です。
<Todo>医療費控除については、別途記事化します。
民間の医療保険は本当に必要か?
これほど手厚い保障が準備されている中で、追加で民間の医療保険に入る必要が果たしてあるのでしょうか。
答えはNoです。
無駄な保険料を支払う必要はありません。貯金で備えればいいだけです。
差額ベッド代等について
高額療養費制度はすさまじい優良制度ですが、費用のすべてが対象となるわけではありません。
典型的なものとして、以下の費用は給付対象ではありません。
- 差額ベッド代
- 医療機関までの交通費
- 食事代
特に、差額ベッド代についてはそれなりの金額(約5,000円/日)がかかるため、この分に備えるために医療保険に入っておいた方がよい、と主張する人がいます。
別途詳しく書きますが、以下の理由から差額ベッド代に備えるための保険など不要です。
- 病院都合の場合は差額ベッド代は不要
- 入院期間は短くする傾向
- かなり多く見積もっても費用は20~30万円程度。保険で備えるには割に合わない。
先進医療について
別途記事化します。
短く結論を述べると、家族間で価値観を話し合う必要があるものの、基本的には先進医療のために保険に入るのは割に合いません。
さいごに
いかがだったでしょうか。
すでに手厚い保険に入っている我々が、さらに別の保険に入る必要がないことが分かって頂けましたでしょうか。
保険を売る側の人たちは、何かと理由を付けて医療保険を勧めてきますが、きちんと知識武装したうえで検討しましょう。