突然ですが、我々はみな強力な呪いにかかっています。
その名も「ドルコスト平均法の呪い」。
何しろ、我々の周りには「ドルコスト平均法がいかに優れているか」という情報が溢れていますので、無理もありません。
- ドルコスト平均法は相場が上がれば資産が増えるし、下がれば取得価格が下げられるのでどちらでも喜べる。
- 購入単価を平準化できるので、高値づかみを回避できる。
- 日々の価格変動に一喜一憂しないで投資を続けられる。
これらの情報が至る所に溢れているため、「よし、貯金が貯まったのでこれから投資を始めよう。ドルコスト平均法でこつこつ積立だ」となってしまうのは当然と言えます。
しかし、この状況こそがまさにドルコスト平均法の呪いです。
この記事では、ドルコスト平均法と一括投資を比較し、一括投資の方がリターンが良いことを示すことで、ドルコスト平均法の呪いを解こうと思います。
また、我々が呪いにかかるメカニズムについても解説していきます。
ドルコスト平均法とは
まず最初に、この記事で批判をしていくドルコスト平均法の定義を明確にしておきましょう。
ここが曖昧なせいで混乱を招く記事が散見されるためです。
普通のサラリーマンが投資をする時、資金拠出の観点から大まかに以下の3パターンに分けられます。
- 手元にまとまった資金があるが、時間分散をして投資をする人 … ドルコスト平均法
- 手元にまとまった資金があり、一括で投資をする人 … 一括投資
- 手元にまとまった資金が無く、毎月の給料から積立投資をしている … 見かけはドルコスト、中身は一括投資
この記事で批判をする「ドルコスト平均法主義者」はパターン①の人です。
③は一見ドルコスト平均法のように見えますが、実態は「一括投資を複数回に渡って繰り返している」だけですので、投資効率の観点で批判するにあたりません。
③を実施している人は、そのまま自信をもって継続しましょう。
以下では、①と②の比較をしていきます。
アセットアロケーションの重要性について
比較に行く前に、あくまで「自分のリスク許容度に応じたアセットアロケーションを保つ」ことがすべての基礎であることは、改めて強調しておきます。
ドルコスト平均法と一括投資のリターン比較
至極当然ですが、資金をリスクにさらす「量×時間」が大きい方が、期待リターンの絶対額は大きくなります。
例えば、1,000万円を一括投資する場合と、10年間かけて100万円ずつ投資する場合の思考実験をしてみましょう。
一括投資の場合、1,000万円は10年にわたってリスクにさらされる(1,000万円×10年間)のに比べ、ドルコスト平均法では55%分((100万円+1,000万円)÷2×10年間)しかリスクにさらされません。
当然、その分がリターンのマイナスとして跳ね返ってきます。
要は、ドルコスト平均法では機会損失が発生するのです。
ドルコスト平均法を推奨する記事が前提としている相場
ドルコスト平均法をおすすめしている記事では、たいてい以下のような相場が示されています。
当然このような相場では一括投資よりもドルコスト平均法の方が投資成績が上回ります。
しかし、「20年以上の長期投資」を前提とした場合に、このような相場が成立する確率はどれほどでしょうか。
インデックス指数は右肩上がり
至る所で目にするでしょうが、インデックスの代表格であるS&P500は、上下を繰り返しながら長期的には右肩上がりで増加しています。
※以下の図は、1990年1月以降のS&P500の推移(円建て・名目値)です。
このような相場の下、「20年の長期投資」を行なうとした場合、一括投資とドルコスト平均法でどちらの方が儲かる可能性が高いでしょうか。
以下では、一括投資とドルコスト平均法のリターンの比較を行います。
「一括投資」と「ドルコスト平均法」のリターン比較
比較の前提は以下の通りです。
- 1990年1月~2000年4月(124ヶ月)までの任意の月に投資を開始したとする。(投資元本1,000万円)
- 投資開始から20年後時点での「一括投資」と「ドルコスト平均法」のリターンを、開始タイミングごとに比較。
- 124ヶ月の開始タイミングのうち、ドルコスト平均法が勝つ確率X%と一括投資が勝つ確率(1-X)%を算出。加えて、年平均リターンも算出。
- なお、ドルコスト平均法の期間は、3年・5年・10年の3パターンで検証。
結果は以下の表の通りです。
横軸の見方には少し注意が必要です。「一括投資」の場合は、1,000万円を一括投資した月を表しています。
一方「ドルコスト平均法」の場合は、資金を投下し始めた月を表しています。(その月を起点として、36ヶ月、60ヶ月、120ヶ月に渡って資金を投下し続けた時のリターンです。)
ビジュアルで見るとよく分かりますが、一括投資の方がリターンが上回るケースが多いです。
確率で示すと、以下の通り。
- 3年ドルコストが勝つ確率 :34%
- 5年ドルコストが勝つ確率 :31%
- 10年ドルコストが勝つ確率:19%
次に、年平均リターンを箱ひげ図で見てみると以下の通りとなります。
一括投資が最も投資効率が良いことが分かります。
ドルコスト平均法による機会損失のインパクトが分かって頂けたでしょうか?
なぜ人は呪いにかかるのか?人間の脳の3つのバグについて。
ここまで数字で示しても、こう考えた人もいるのではないでしょうか?
「3~5年で時間分散しても30%の確率で一括投資よりもリターンが良くなるのなら、ドルコスト平均法で良いのではないか。」
明らかに期待値が低いにも関わらず、こう考える人は驚くほど多いです。
(これこそが「呪い」たる所以です…。)
なぜ人間はこのような考え方をしてしまうのでしょうか?
これには、人間の脳の「バイアス」が影響しています。
以下では「損失回避性バイアス」、「双極曲線」、「現状維持バイアス」について簡単に見ていきましょう。
損失回避性バイアスとは
※記事があまりに長くなるので、詳細は別の記事に書きます。
端的に言うと、人間の脳には「利益よりも損失に過剰に反応してしまう」というバグがあります。
このバグにより、一括投資の方が得られる利益の期待値は高いにも関わらず、一括投資後に株価が下がって含み損を抱えることを過剰に恐れてしまい、非合理的な判断に至ってしまいます。
- 質問1:あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示されたものとします。
■ 選択肢②:コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない。
どちらも手に入る金額の期待値は100万円ですが、堅実性の高い「選択肢①」を選ぶ人の方が圧倒的に多いことが実験で証明されています。
- 質問2:あなたは200万円の負債を抱えているものとします。そのとき、同様に以下の二つの選択肢が提示されたものとすると、どうでしょうか。
■選択肢②:コインを投げ、表が出たら支払いが全額免除されるが、裏が出たら負債総額は変わらない。
こちらも両者の期待値は-100万円と同額です。
通常、質問1で「選択肢①」を選んだ人ならば、質問2でも堅実的な「選択肢①」を選ぶと推測されます。
しかし、実際には質問1で「選択肢①」を選んだほぼすべての人が、質問2ではギャンブル性の高い「選択肢②」を選ぶことが実証されています。
人間の脳は、「損をする」ということに耐えられないようにできているのです。
現状維持バイアスとは
その他にも、人間の脳には「現状維持バイアス」というバグがあります。
※こちらも詳しくは別の記事に書きます。
端的に言うと、「安定している現状を過度に評価してしまい、より効率的な別の状態に移ることができない」というものです。
「1,000万円を現金で保有している」という現状は、投資効率から見て非合理的です。
しかし、その「非合理的な安定」を一括投資により崩すことは、脳のバグにより難しいのです。
これらのバイアスを乗り越える必要がある。
このように、我々の脳には生まれた時からバイアス=バグのようなものが組み込まれています。
投資効率を最大化するために、このバイアスを取り除いた意思決定を行なう必要があることをご理解いただければと思います。
そうはいっても一括投資は怖いという方
こちらの記事も合わせてお読みください。呪いを解く一助となれば幸いです。